神奈川新聞 平成18年7月17日 掲載 歯科コラム
歯科医院のドアを開けたときに飛び込んでくる、あのドリルの「キーン」という音や特有のにおい。想像しただけで身がすくむ人もいるのでは。
しかし、現在歯科医院に通院している患者さんは、そういった治療が必要な人ばかりではありません。定期的にバイオフィルム(歯の表面につく取れにくい細菌などの膜=歯垢の一種)を除去し、虫歯を予防するために、PMTC(専門の研磨剤や歯を傷めない器具を用いた清掃)のような歯のケアを受けに来ている人たちです。
虫歯はバイオフォルムが原因の感染症といってもいいでしょう。予防のためには、歯医者さんに口の中の状況をよく把握してもらい、生活習慣に対する指導も受け、定期的に口の中をきれいに管理し、ケアしてもらうことが大切なのです。それがバイオフィルムの定着を防ぐことになるからです。
具体的なPMTCですが、回転器具の先にラバーカップという歯を傷めない清掃具をつけ、フッ化物入りのペーストで歯の表面を研磨するようにきれいにしていきます。これが終わると、歯の表面はつるつるになり、指で「キュッ、キュッ」と音がするほどです。痛みもなくむしろ気持ちよいので、眠ってしまう人もいます。
フッ化物は歯の表面に作用し再石灰化を促し、歯の質を強化してくれます。その結果、酸に対する抵抗性を高め、脱灰を防いでくれるのです。フッ化物は虫歯の強力な武器といえるでしょう。こうしたPMTCを定期的に繰り返すことによってバイオフィルムの定着を防ぎ、再石灰化を促していくわけです。
今、こうした定期的な歯のケアを行う歯科医院が増えてきています。私たち歯科医にも、今までの歯科治療はあまりにも病気の事後処理に偏っていたという反省があります。歯科の先進国である北欧などの国々では、従来の削ってつめる歯科治療(キュア)から、歯を健康に支えるパートナーとなる歯科医療(ケア)への転換してきているといいます。
「キュア」から「ケア」へ。みなさんの「健康でありたい」を、口の健康からお手伝いする歯科医療なんてすてきですよね。
病気になってから行くか、病気にならないように行くか。あなたはどちらですか?
<隔週掲載>
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