神奈川新聞 平成18年9月18日 掲載 歯科コラム
人の「生」「老」「病」「死」にはとかく費用がかかります。
江戸時代のお抱え医師の年俸は今の価値で四百万円だったそうですが、実際の収入はその数十倍もあったようです。幕末、漢方の神様といわれた浅田宗伯は、一日五百人を診て年収二千三百両。現在の価値に直すと、二億円。
そんな中、当時の庶民の平均寿命は四十歳代。お金をかけずに長生きしたい、ささやかな夢を実現すべく「養生訓」(貝原益軒)などの健康本が広く読まれていました。もっぱら、食養生や生活規範を改善することで、病気予防を行っていました。
明治維新を経て、わが国にも西洋医学が導入されます。長与専斎(内務省衛生局長)は、欧州視察から帰り「衛生」という新しい考え方を実践していきます。
「養生」が個人の生命・健康を守るのに対し、「衛生」は社会全体のそれを守っていくものです。この中に、医療制度、健康教育、疾病予防、衛生行政などが含まれています。
大正十一(一九二二)年、日本にも本格的な「健康保険法」が公布されました。初めて医療を公的な物と位置付けたのです。
戦後、WHO(世界保健機関)は公衆衛生を「社会の組織的努力で、疾病を予防し寿命を延長する」こととしています。
その根幹となるわが国の医療制度は、医療費の高騰や財政赤字など、いろいろ問題を抱えていますが、私たちが百年にわたって培ってきた貴重な財産です。
医療保険によって、平等に医療を受けられることはたいへん幸せなことです。わが国が今後手本にしようとしている米国では、現在民間保険が主流ですが、貧困者など七人に一人が無保険で、医療を受けられない状態です。
今私たちは、かけがえのないこの制度を守るため、高騰する医療費を節約していかなければなりません。健康の維持・増進に自助努力することが求められています。
その効果的な方法は、思わぬところにありました。健康を支え、医療費を減らすヒントは、皆さんの口の中になったのです。
次回は最新の医療費削減法をお話しします。
<隔週掲載>
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