神奈川新聞 平成18年12月18日 掲載 歯科コラム
児童虐待での大きな問題点は、虐待するような親は、その行為を隠すため、虫歯が多いくらいでは歯科医院を受診させないことです。一般の歯科医院からの児童虐待の通告は皆無といってよいでしょう。
しかし、以下の事例で、歯科医師も虐待を予防できることが分かります。
▽学校歯科健診
毎年の健診にもかかわらず治療を受けない姉弟がおり、その家庭環境を聞くと父親が病気がちで母親がパートで生計を立てているとのことでした。
校長が民生委員を通じ生活保護を受けることを勧めてみても、また養護教諭が家庭訪問をして治療の勧告をしても了解の返事のみでした。
そこで校長・養護教諭・クラス担任・校医・歯科校医が集まり、児童虐待ではないかと検討し、児童相談所に通報しました。
現在、横浜市では学校からの治療勧告書は親の署名・押印だけで治療が終了したことになっています。
しかし、虐待されている子どもたちを見つけるためにも、医療機関の署名・押印が不可欠といえます。
▽三歳児健診
その子はおとなしくてトラブルがあるようには思えませんでした。事前アンケートへの養育者の回答も、当たり障りのない内容でした。
しかし、口の中を見てビックリ。ほとんどの乳歯が半壊状態なのです。母親はかたくなに「しょうがないでしょう」の一点張りです。
健診後のミーティングで、歯科医師がこの子の追跡調査をお願いしておきました。
保健師が行ったその後の調査によると、母親はDV(家庭内暴力)に遭っており、アルコール依存症になっていました。そこで保健師が子どもの養育どころではないと判断し、保健所内の担当へ通報しました。
現在、横浜市では就学前児童の健診の受診率は90%となっています。しかし、虐待されている子どもたちが、残りの10%の中にいると考えて、行政サービスを企画・立案していくべきだと思います。泉区で行われている日曜健診などは、横浜市全体で行われるべき行政サービスだと思います。
私たち歯科医師も診察の際に、児童虐待の早期発見・予防に果たす役割は大きいことが分かります。関係者とともに、あらゆる機会をとらえて子どもたちを守り育てることに貢献することも、大切な仕事なのです。
<隔週掲載>
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