神奈川新聞 平成19年3月26日 掲載 歯科コラム
今回は口腔がんの話です。転移のない小さな舌がんは、早期に発見されれば簡単に切除するだけの手術で済みます。舌を半分ほど切り取っても再建手術を併用すれば、術後の機能障害をかなり抑えることができるのです。
しかし、がんが進展して大きくなり、転移巣を作るようになると厄介でかなり組織を切り取る必要がでてきます。口の機能は、会話する、かむ、のみ込むなど人間にとって欠かすことができない生活機能なのです。これらは舌、歯、あご、ほおなどの統合運動機能であり、しかもおのおのが独立した機構を持っています。これらに味覚やら、だ液腺分泌などが加わるからさらに複雑です。
口腔がんなどの手術で舌やあごが失われた場合、一挙に会話やのみ込み、咀嚼ができなくなるので、体の他部位から血管をつけて皮膚や骨を移植します。さらに高度な外科技術と精密な歯科技術を駆使して、性質の異なった機能の回復をはかるのですが、それでも口の持つ高度な文化機能を代償することは困難です。
結局行き着くところはいかに切り取る組織を少なくできるかということになります。
最近になって理想に近い治療法が出現しました。サイバーナイフです。コンピューターで制御されたロボットが行う放射線外科治療です。個人用の顔面マスクなどを作製した上で、陽電子放出断層撮影(PET)、コンピューター断層撮影装置(CT)、磁気共鳴画像装置(MRI)などをもとに精密な治療計画を立て、実際の治療は外来通院三〜五日で終了します。
もちろん、その後の厳重な経過観察はいうまでもありません。初期の舌がんならこれだけで切らずに治せるわけです。
これは現在、脳腫瘍や頭頚部腫瘍のみが保険の対象になっています。もちろん口腔がんはこの中に含まれます。
口腔がんは多機能を営む口に出現するので、切り取った後の機能障害が甚大です。病巣が小さければ小さいほど確実に治って、あとの機能障害も最小限で済むことは今も昔も変わりありません。口の中の異常を見つけたら症状がなくても専門医に見てもらうことが大切です。
(鶴見大学歯学部口腔外科教授・病院長 瀬戸ユ一)
<隔週掲載>
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